訪問介護の開業資金はいくら必要?費用の内訳や資金調達方法について解説
- 2023.10.17
訪問介護の開業を考えている方にとって、「開業資金はいくら必要か?」「どのように資金調達すべきか?」といった点は、気になるポイントかと思います。
訪問介護の新設法人調査によると、訪問介護の新規開業は増加傾向にある一方で、2023年には老人福祉・介護事業者の倒産数が前年比で44件増加し、過去最多となっています。
資金不足が原因で倒産するケースもあるため、開業資金について理解しておくことが重要です。
本記事では、訪問介護の開業資金の目安と費用の内訳、計算方法、資金調達方法、資金調達時の注意点について解説します。介護分野で利用できる「処遇改善加算制度」の活用方法についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
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訪問介護の開業資金の目安
訪問介護の開業資金の目安は、設立する地域や規模によっても異なります。
仮に月の売上が250万円とすると、開業準備にあてる資金と、3カ月分の運営資金をあわせて、少なめに見積もって400万~700万円ほどが想定されます。
訪問介護の開業資金の内訳
訪問介護の開業資金には、開業準備のための諸費用と開業後の運転資金が含まれます。
【開業前】
- 法人設立費用:10万~30万円ほど
- 事務所契約金・改装費用:30万円ほど
- 設備・備品費用:30万~50万円ほど
- 販促費:7.5万~12.5万円ほど
- 車両費:2万~(自転車の場合)
- 人件費:100万~125万円~
- その他:30万~
【開業後】
- 運転資金:約210万~420万円
訪問介護の開業資金の内訳を詳しく見ていきましょう。
開業前|法人設立費用
介護事業者の指定を受けるには、法人格が必要です。
法人の種類として、株式会社・合同会社・NPO法人の3つの形態があり、それぞれの設立費用の目安は次の通りです。
- 合同会社:10万円程度+資本金
- 株式会社:24万程度+資本金
- NPO法人:0円
NPO法人は設立費用・資本金ともに0円ですが、非営利組織であるため社員や役員への利益分配が制限されます。
そのため、法人設立のための資金としては、10万~30万円ほどを目安にすると良いでしょう。
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開業前|事務所契約金・改装費用
訪問介護事業を開始する際には、法人格の取得に加え、人員・設備・運営に関する基準を遵守した上で、指定申請を行います。
設備基準として事務室の設置が必須とされているため、事務所の契約金や改装費用を見込んでおく必要があります。
関連記事:介護福祉事業の開業・立ち上げに必要な指定申請の流れ
仮に家賃が6万円の場合、事務所契約のための初期費用は30万円から36万円程度かかります。
なお、自宅の一部を事務室として使用できるケースもありますが、自治体によって細かな設備基準が設けられていることもあるため、確認が必要です。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(◆平成11年03月31日厚生省令第37号)
開業前|設備・備品費用
訪問介護の設備基準として、「指定訪問介護の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない*」という決まりがあります。
*引用:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(◆平成11年03月31日厚生省令第37号)
次のような備品や衛生に関する設備を用意するために、初期費用として30万~50万円ほどの資金が必要です。
- テーブル・椅子
- 電話・FAX
- プリンター
- パソコン
- 書棚
- 金庫
- タイムカード
- 洗面台(手指を洗浄するため)
- 液体せっけん
- 消毒液
- 清潔なタオルまたはペーパータオル など
開業前|販促費
訪問介護事業を開業する際には、地域での認知度を高めて集客するための販促費も見込んでおかなければなりません。
一般的な販促費の目安は「売上の3%〜5%」とされており、月売上250万円とすると、7.5万~12.5万円が想定されます。
内訳として、以下のようなものがあげられます。
- チラシやパンフレットの制作・印刷費
- ホームページ制作費
- ウェブ広告費
- 開業記念イベントやセミナーの費用
- 看板や宣伝物のデザイン・設置コスト など
開業前|車両費
訪問介護は訪問看護と異なり、医療関連用品・器具の持ち歩きが必要ないことから、訪問先への移動には自転車が用いられる傾向があります。
自転車の購入費用として、通常2台で2~3万円ほどかかります。自動車を使用する場合、新車で車両本体の購入費用として約150万円から300万円、中古車で100万円から200万円程度が見込まれます。
自動車の場合は、そのほかに自動車税・自賠責保険・重量税などの税金と、車両装備や車両保険料も考慮する必要があります。
開業前|人件費
訪問介護の指定申請では、開業前から人員を確保し、人員基準を満たす必要があります。
必要な人員は自治体によって違いはあるものの、基本的には常勤換算で2.5人以上(管理者・サービス提供責任者・訪問介護員を含む)などの人員基準が設けられています。
仮に開業2カ月前から給与が発生したとして、常勤2名(月給20万~25万円と仮定)と、非常勤1名(給与は常勤の半分と仮定)を雇用した場合、開業準備期間中に約100万~125万円の人件費がかかります。
【計算式】 ①常勤2名にかかる人件費 ②非常勤1名にかかる人件費 ③合計 |
なお、訪問介護では、介護職員の職場環境や賃金の改善を支援する仕組みである「介護職員処遇改善加算」を利用できます。
処遇改善加算に認定されると、介護報酬に上乗せして事業所へ支給されるため、給与水準を高めて職員の採用をしやすくすることや、開業後の資金繰りにも役立てられます。
>処遇改善加算を取得したい方へ|介護事業開業サポートセンター
開業前|その他
その他にも、次のような費用が発生します。
- 光熱費:1万円~2万円ほど/月
- 通信費:1万円~2万円ほど/月
- 介護ソフト・カルテなどの導入費:初期費用数十万円、数千円~数万円/月
- 従業員や車の保険料:契約内容により異なるが、月に1万円以上
合計で30万円ほどを見込んでおくと良いでしょう。
開業後|運転資金
ここまでの準備費用に加え、当面の運転資金も用意する必要があります。
訪問介護事業の主な収入源である介護報酬は、実際の介護サービス提供から1~2カ月後に入金されることが一般的です。
最初の数カ月は収入が限られる一方で、経費は支払わなければなりません。
【開業後の経費例】
- 家賃:6万円
- 消耗品・雑費:3万
- 販促費:7.5万~12.5万円
- 人件費:20万×2.5人=約50万円
低めに見積もっても、1カ月あたり70万円ほどかかります。
最低でも3カ月から半年分の運転資金を見積もり、約210万~420万円の資金を用意しておくことが賢明です。
訪問介護の開業資金の計算に必要な介護報酬について
訪問介護の開業資金は、売上見込みに応じて大きく変化します。
訪問介護事業での主な収入源は介護報酬であり、厚生労働省のデータによると、令和3年度の介護料収入の平均は、1カ月あたり296万6,000円となっています。
介護報酬は、介護サービスの種類・要介護度・地域区分に基づき算出され、3年ごとに介護報酬制度の見直しが行われます。
最新の介護報酬制度をもとに売上見込みを算出し、開業資金の計画を立てましょう。
訪問介護開業のための資金調達方法
訪問介護開業の資金調達方法として、自己資金とあわせて次のような調達方法を利用する形が一般的です。
- 介護職員処遇改善加算制度を活用する
- 日本政策金融公庫からの融資
- 金融機関からの借り入れ
それぞれの方法について解説します。
介護職員処遇改善加算制度を活用する
介護職員処遇改善加算とは、介護職員の給与向上を促進するために介護サービスに上乗せされる報酬です。
処遇改善加算を活用することで、給与水準を高めてスタッフの雇用を促進できます。また、事業開始後の運転資金としても役立てられます。
ただし、申請には煩雑な手続きと制度の理解が必要です。自社での申請が難しい場合は、専門家に依頼することをおすすめします。
>処遇改善加算を取得したい方へ|介護事業開業サポートセンター
日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫が提供する「新規開業資金」は、新規事業者や開業後7年未満の方向けの融資制度です。
介護分野に対して積極的に支援を行っているため、比較的融資を受けやすく、訪問介護の開業資金に充当できます。
出典:日本政策金融公庫
金融機関からの借り入れ
銀行や信用金庫などの金融機関に相談し、介護事業向けの融資を受ける方法です。
融資を受けるためには、訪問介護の収益見込みや経営計画に関する資料を準備する必要があります。
なお、実績のない新規事業の創業時には、金融機関からの融資が難しいケースも多いです。
訪問介護開業の資金調達時の注意点
訪問介護開業の資金調達時には、次の3点に注意しましょう。
事業規模に適した融資金額を算出する
一つの注意点は、事業規模に適した融資金額を算出し、資金調達に過度に依存しないことです。
慎重に資金調達計画を立てることで、将来的な財務の安定につながります。
事業計画書・収支計画書は具体的・現実的な内容にする
金融公庫や金融機関から資金を調達する場合、具体的かつ現実的な事業計画書と収支計画書の提出が求められます。
事業の目的・展望・市場調査・競合分析・財務計画などを明確に示すことで、融資を受けられる確率が高まります。
助成金の申請には時間がかかるため、長期的な視点で活用を検討する
国や地域では、キャリアアップ助成金など雇用関連の助成金が提供されており、訪問介護事業にも適用されます。
ただし、助成金の審査や申請プロセスには時間がかかることも多いため、利用を検討する際には、長期的な視点を持つことが大切です。
また、専門家のサポートを受けることもおすすめです。法律により、労働社会保険に関する法令に基づく助成金の申請書の作成および提出は、社会保険労務士に限定された業務とされています。
依頼先を検討する際には、介護・福祉事業に特化した社労士事務所を選定しましょう。
関連記事:介護・福祉に強い社労士の見分け方とは?依頼するメリットや相談できること
まとめ
訪問介護の開業資金の目安は、地域や規模によって異なりますが、およそ400万~700万円ほどが想定されます。内訳は、開業前にかかる費用と開業後の運転資金です。
開業計画を立てる際には、本記事で紹介した開業資金の内訳や資金調達方法、資金調達時の注意点を参考にしていただけると幸いです。
アステージ社労士・行政書士事務所の「介護事業開業サポートセンター」では、訪問介護の開業支援を行っています。開業のための事業者申請のサポートから、訪問介護職員の処遇改善加算制度の活用、開業後の給与計算の代行まで承っております。
助成金のご提案や申請代行にも対応できるため、ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者情報
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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
「介護事業開業サポートセンター」では、これから介護・福祉事業をスタートされる方および既に開業されている方の為に必要な手続きをトータルでサポートしております。
介護・福祉事業の創業を数多くお手伝いしている実績をもとに、法人設立・指定申請などの手続き、助成金や融資、開設後の運営もご相談頂ける「身近な専門家」として、常にお客様の立場に立ったサービスを心がけ、全力でお手伝いさせて頂きます。