2024年度 訪問介護の介護報酬改定のポイント10項目|訪問介護事業所が行うべき対策とは
- 2024.05.02
2024年度の訪問介護び介護報酬改定では、「基本報酬の減算」「特定事業所加算」「同一建物等居住者減算」「BCP未実施減算」の項目で大幅な変更がありました。
介護報酬の改定は、訪問介護事業所の収入や介護事業者の待遇にも影響を与えるため、改定内容を理解したうえで、計画的に対応を進める必要があります。
この記事では、2024年度の訪問介護の介護報酬改定のポイントと、訪問介護事業所が取るべき対策について、2024年4月時点の情報をもとに解説します。
2024年度 訪問介護の介護報酬改定のポイント10項目
まずは、2024年度「訪問介護の介護報酬改定」のポイントを、次の10項目に分けて解説します。
- 基本報酬の減算
- 特定事業所加算区分の見直し
- 同一建物減算の見直し
- 業務継続計画(BCP)未策定の場合は減算となる
- 高齢者虐待防止措置が未実施の場合は減算となる
- 身体的拘束等の適正化推進
- 認知症専門ケア加算の見直し
- 口腔連携強化加算の創設
- 管理者の責務及び兼務範囲の明確化
- 処遇改善加算の一本化
①基本報酬の減算
2024年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が「身体介護」「生活援助」「通院等乗降介助」ともに減算となります。
この減額は、令和5年度の概況実態調査で示された訪問介護の収支が前年比で改善したことによります。具体的には、通所介護・訪問看護・居宅介護支援に比べて、訪問介護の収支が改善しているとの調査結果が得られたためです。
改定前 |
改定後 |
||
身体介護 |
20分未満 |
167単位 |
163単位 |
20分以上30分未満 |
250単位 |
244単位 |
|
30分以上1時間未満 |
396単位 |
387単位 |
|
1時間以上 |
579単位に30分を増すごとに+84 |
567単位に30分を増すごとに+82単位 |
|
生活援助 |
20分以上45分未満 |
183単位 |
179単位 |
45分以上 |
225単位 |
220単位 |
|
通院等乗降介助 |
1回につき99単位 |
1回につき97単位 |
ただし、訪問介護では処遇改善加算の加算率が大きく引き上げられています。処遇改善加算については後述します。
②特定事業所加算区分の見直し
2024年度の介護報酬改定の中で、訪問介護の分野における大きな変更点として、特定事業所加算区分の見直しがあげられます。特定事業所加算区分とは、利用者に充実したサービス提供体制を持つ事業所を評価するための加算制度です。
現行の特定事業所加算の加算区分はⅠからⅤまでありますが、今回の改定ではⅣが廃止され、現行のⅤがⅣに繰り上がる形で、新たにⅤが追加されました。
<特定事業所加算の加算区分>
加算の算定には、以下の3つの要件があります。
- 体制要件(1)~(8)
- 人材要件(9)~(12)
- 重度者等対応要件(13)~(14)
それぞれの変更点は、以下の通りです。
■体制要件の変更点
上記表の通り、体制要件(1)から(5)はすべての加算区分で共通の要件であり、基礎となる部分です。
現行の加算区分Ⅳが廃止されるため、これまでの「サービス提供責任者ごとに作成された研修の実施」の項目が、体制要件(1)に統合されました。これにより、すべての加算区分で「訪問介護員やサービス責任者ごとに計画された研修の実施」が要件として追加されます。
また、新たに(6)~(8)の3つの体制要件が追加されます。
(6)は、(14)を選択した場合にのみ、加算区分ⅠとⅢの要件となります。特定事業所加算の体制要件(6)(14)では、看取り期の利用者への対応について、加算ⅠとⅢに、以下の要件が追加されました。
【体制要件(6)】
- 病院、診療所、または訪問看護ステーションの看護師との24時間連絡可能な連携体制を確保し、必要に応じて訪問介護を提供できる体制を整備すること
- 看取りの期間における対応方針を策定すること
- 看取りに関する職員の研修を実施すること
【体制要件(14)】
- 看取り期の利用者への対応実績が1人以上あること
- 体制要件(6)を満たしていること
特定事業所加算のⅠとⅢの取得を目指す場合は、これらの要件を満たしているかを確認しましょう。
(7)(8)は、新しく設けられる加算区分Ⅴにのみ適用されます。
特定事業所加算Ⅴの要件として、「通常の事業の実施地域内であって中山間地域等に居住する者に対して、継続的にサービスを提供していること」という項目が追加されました。
中山間地域等とは、山岳地やその周辺地域など、サービス提供が困難な地域です。こうした地域でサービス提供を行う事業所の適切な評価に基づいて、見直しが行われました。
■人材要件の変更点
人材要件の(9)と(10)には変更がなく、(11)と(12)が、新たに加算区分ⅢとⅣで選択適用となります。
■重度者等対応要件の変更点
重度者等対応要件の変更点は、加算区分ⅠとⅢで(13)と(14)が選択肢となります。仮に(14)を選択した場合、(6)が必須要件となります。
③同一建物減算の見直し
2024年度の介護報酬改定では、訪問介護の同一建物減算に関して、「事業所の利用者のうち一定割合以上が同じ建物や敷地内に居住している場合に、報酬の調整が行われる」という新しい減算区分が設けられました。
ここでいう「同一建物等」とは、事業所と同じ建物や敷地内、または道路を挟んだ隣接敷地の建物を指します。これらの建物に居住する利用者に対して提供される訪問介護サービスは、移動時間が短くて済むことから、報酬減算が適用されています。
2024年の改定では、同一建物等居住者減算の既存の3つの区分に加えて、第4の減算区分が追加となります。
【既存の3つの減算区分】
①事業所と同一の建物等に居住する利用者が49人までの場合:10%減算
②事業所と同一の建物等に居住する利用者が50人以上の場合:15%減算
③建物が事業所から離れた場所にあり、その建物に20人以上が居住している場合:10%減算
これらは利用者の人数に応じて報酬の割引が適用されますが、さらに事業所の利用者の比率によって新しい減算区分が設けられます。
【新しい減算区分】
④前6カ月間に提供された訪問介護サービスのうち、同じ建物等に居住する利用者が90%以上の場合:12%減算
例えば、全利用者が20人いた場合、そのうち18人が同一建物等に居住している場合、比率が90%となり、12%の割引が適用されます。
同一建物減算の見直しについては、高齢者住宅内や隣接敷地に設置している訪問介護事業所は、特に注意が必要です。
④業務継続計画(BCP)未策定の場合は減算となる
訪問介護における業務継続計画(BCP)とは、災害や感染症の流行などの緊急事態が発生した際に、利用者に対するサービス提供を継続するための具体的な方針や手順を取り決めた計画です。
BCPは、2024年3月までは努力義務でしたが、4月からは介護事業者におけるBCPの策定が完全義務化されます。
BCP未策定は基準違反となり、1年間の経過措置期間を経て、2025年(令和7年)4月からは業務継続計画の未実施に対して、1%の減算が適用されます。
BCPに対応していない訪問介護事業者様は、アステージ社労士・行政書士事務所の「介護事業開業サポートセンター」へご相談ください。
⑤高齢者虐待防止措置が未実施の場合は減算となる
高齢者虐待防止措置は、2024年3月までは努力義務でしたが、4月から完全義務化となります。高齢者虐待防止措置の未実施による減算として、所定単位数の1%に相当する単位数が削減されます。
算定要件は、「虐待の発生や再発を防止するための措置が講じられていない場合」であり、具体的には、以下が未実施の場合は減算となります。
- 虐待の発生や再発を防止するための対策検討委員会の開催
- 職員への周知徹底
- 高齢者虐待防止指針の整備
- 高齢者虐待防止研修の実施
- 高齢者虐待防止担当者の配置
⑥身体的拘束等の適正化推進
訪問介護は利用者の生活空間でサービスを提供するため、通常は身体的拘束は行われません。ただし、緊急でかつ避けられない場合に限り、身体的拘束が必要になることがあります。
今回の介護報酬改定では、訪問介護で身体的拘束が行われる場合の要件として、以下の2点が明記されました。
- 身体的拘束を行うのは、利用者または他の利用者の生命や身体を保護するため、緊急でかつ避けられない場合に限る
- 身体的拘束を行う場合、その理由と実施状況を記録する必要がある
これらの要件は運営基準に明記されていますが、2024年4月時点では減算の対象にはなっていません。
⑦認知症専門ケア加算の見直し
2024年度の介護報酬改定では、訪問系サービスにおける認知症専門ケア加算に関する要件が見直され、利用者の受け入れ基準が変更されました。これは、認知症高齢者の重症化を緩和し、日常生活自立度Ⅱの方に対する専門的なケアを行うことを評価するためのものです。
現在の認知症専門ケア加算は、以下のように算定されますが、これらの単位数は変更されず、利用者の要件が見直されます。
- 加算区分(Ⅰ):3単位/日
- 加算区分(Ⅱ):4単位/日
具体的には、加算区分(Ⅰ)では「日常生活自立度Ⅱ以上」と改定され、加算区分(Ⅱ)では「日常生活自立度Ⅲ以上の利用者が20%以上」の要件が追加されました。
⑧口腔連携強化加算の創設
2024年度の介護報酬改定では、口腔連携強化加算が新たに設けられ、1回につき50単位加算されます。
この加算の要件は、以下の通りです。
- 事業所の従業員が口腔の健康状態を評価し、利用者の同意を得て、その評価結果を歯科医療機関や介護支援専門員に提供した場合
- 1カ月に1回に限り加算
- 事業所が、診療報酬の歯科訪問診療料の算定に関する経験がある歯科医師またはその指示を受けた歯科衛生士が従業員からの相談に対応する体制を確保し、その手順を文書等で確立している場合
口腔連携強化加算の適用には、利用者自身の同意が必要である点に注意が必要です。
⑨管理者の責務及び兼務範囲の明確化
運営基準(人員配置基準)では、介護サービスの管理者は原則「常勤専従」とされていますが、管理業務に支障がない場合は同一敷地内や隣接する事業所での兼務が認められています。
2024年の介護報酬改定では、新たに管理者の責務と兼務範囲が明確化され、「利用者中心のサービス提供を確保するため、利用者へのサービス提供の場面で生じる事象を適時かつ適切に把握し、職員や業務の一元的な管理・指揮命令を行うこと」とされました。
つまり、同一の事業者が運営する他の事業所での管理者や従業員としての職務に従事する際も、利用者へのサービス提供の場面でのマネジメントや指揮命令を適切に行うことができる場合には、兼務が認められることになります。
⑩処遇改善加算の一本化
2024年度の介護報酬改定では、現行の3つの加算要件や加算率を統合し、4段階の統一された「介護職員等処遇改善加算」が導入されます。
これは訪問介護も適用となり、改定後の加算率は以下の通りです。
関連記事:2024年度(令和6年度)介護報酬改定|処遇改善加算の変更点や加算率、算定要件まとめ
2024年度 介護報酬改定で訪問介護事業所が行うべき対策
2024年度の介護報酬改定では、大きな変更点がいくつもありました。ここでは、介護報酬改定で訪問介護事業所が行うべき対策を3つご紹介します。
一本化される「介護職員等処遇改善加算」の取得を目指す
これまでの訪問介護の加算率は、最大で22.4%の加算率でしたが、一本化された介護職員等処遇改善加算では、最大24.5%の加算が可能になります。
介護職員等処遇改善加算の取得により、介護報酬の改善が期待されるため、取得のための準備を進めると良いでしょう。
事業所内で対応するのが難しい場合は、当サポートセンターへお気軽にご相談ください。
>処遇改善加算を取得したい方へ|介護事業開業サポートセンター
特定事業所加算が未取得の場合は取得を目指す
特定事業所加算における区分と適用要件が見直され、現行の(6)の要件である「サービス提供責任者ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施」が新たに(1)へ統合されました。
体制要件(1)~(5)はすべての加算区分に共通の基準となるため、特定事業所加算を未取得の場合は積極的に取得を目指しましょう。
業務継続計画(BCP)未対応の場合は早急に対応する
業務継続計画(BCP)は、2024年3月までは努力義務とされていましたが、4月からは完全義務化されます。
BCPの作成が未完了の場合、基準に違反することになり、2025年4月からは1%の減算が適用されるため、早急に対応されることをおすすめします。
まとめ
2024年度介護報酬改定における訪問介護の主な改定内容は、以下の通りです。
- 基本報酬の減算
- 特定事業所加算における区分と適用要件の見直し
- 同一建物等居住者減算として、事業所の利用者比率に応じた減算が新たに導入された
- 業務継続計画(BCP)が策定されていない場合は減算となる
- 高齢者虐待防止措置が実施されていない場合は減算となる
- 口腔連携強化加算が新設
- 処遇改善加算の一本化
処遇改善加算やBCPの対応については、アステージ社労士・行政書士事務所の「介護事業開業サポートセンター」でも対応しております。業務の依頼をご検討中の方は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。
執筆者情報
-
事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
「介護事業開業サポートセンター」では、これから介護・福祉事業をスタートされる方および既に開業されている方の為に必要な手続きをトータルでサポートしております。
介護・福祉事業の創業を数多くお手伝いしている実績をもとに、法人設立・指定申請などの手続き、助成金や融資、開設後の運営もご相談頂ける「身近な専門家」として、常にお客様の立場に立ったサービスを心がけ、全力でお手伝いさせて頂きます。