訪問看護の開業・立ち上げに必要な資金は?内訳や資金調達方法・助成金について解説
- 2023.08.28

訪問看護の開業を検討する中で、「必要な資金はどれくらい?」「どのように資金調達すべき?」といった疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
訪問看護の開業・立ち上げには、初期費用・運営資金・申請手数料などがかかり、まとまった資金の準備が必要です。
この記事では、訪問看護の開業・立ち上げに必要な資金の目安と、費用の内訳・資金調達方法・助成金について解説します。
訪問看護の開業・立ち上げに必要な資金の目安
訪問看護の開業・立ち上げに必要な資金の目安は、事業規模やエリアによっても異なりますが、800万~1,500万円程度が一般的です。
法人として訪問看護ステーションを開業・運営するためには、人員・設備・運営に関する基準を満たしたうえで、都道府県などの指定を受ける必要があります。
具体的には、人員基準に合致する看護師を雇用し、適切な事務所と必要な設備・備品を整え、運営基準に沿った規程やマニュアルを作成しなければなりません。
これらの準備にあてる初期費用として少なくとも500万円ほどと、当面の運営資金300万~800万円ほどを見込んでおくと良いでしょう。
訪問看護の開業に必要な資金の内訳
具体的な金額は、スタッフの人数や事務所の広さ、備品の購入やリースの有無、事業が軌道に乗るまでの期間などの要因によって変化します。
例えば、スタッフ4名・月売上400万円の訪問看護ステーションを開業する場合、次のような内訳が想定されます。
例)
人件費 | 225万~540万円ほど |
事務所・物件の初期費用や賃貸料 | 50万~100万円ほど |
設備・備品の準備費用 | 50万~100万円ほど |
車両関連費 | 2万~300万円ほど |
法人設立の登録費・申請手数料 | 30万円ほど |
広告宣伝費 | 50万円ほど |
運転資金 | 150万~300万円ほど |
合計 | 890万~1,780万円 |
ここでは、訪問看護の開業に必要な資金の内訳について、一つずつ説明します。
人件費
訪問看護事業の開始後は、最初の収入が開業から3か月後になることが多いことから、3~5か月分の人件費を確保しておく必要があります。
人件費には、給与・社会保険料・法定福利費・退職金の拠出などが含まれます。
訪問看護事業を開業する際の人員を、常勤職員2名、非常勤看護師1~2名と仮定しましょう。
常勤職員1人あたりの給与を30万円/月、非常勤看護師の給与を15万円/月とすると、人件費は月額75万~90万円程度と想定されます。3か月~半年分の人件費を用意する必要があるので、225万~540万円ほどの費用がかかります。
また、開業準備を手伝ったスタッフの人件費についても計算しておく必要があります。訪問看護の給与計算方法については、こちらをあわせてご覧ください。
関連記事:訪問看護の給与計算の方法は?注意点や効率的な計算方法も解説
事務所・物件の初期費用や賃貸料
訪問看護ステーションの開業では事務所を構えることが一般的であり、そのための事務所・物件の初期費用や賃貸料が発生します。
賃貸物件の取得には、敷金・礼金・管理費・賃貸料・改修費用など、初期費用として50万~100万円ほどを見込んでおくと良いでしょう。
物件を購入する場合は、地域や施設の大きさなど諸条件にもよりますが、スタッフ用のオフィス・トイレ・休憩室を含めた事務所で500万~1,500万円程度が想定されます。
このほか、訪問看護では訪問に使用する車両やスタッフの通勤車両用の、駐車スペースを確保するための駐車場代もかかります。
設備・備品の準備費用
事務所や訪問時に使用する設備・備品の準備には、初期費用として50万~100万円ほどの資金が必要です。
主に、以下のアイテムの準備に充てられます。
- 事務デスク・チェア
- 医療衛生材料(体温計・血圧計・訪問セットなど)
- パソコン・電子機器(事務作業・電子カルテ・スタッフ連携に使用)
- 通信機器(電話機・社用携帯)
- コピー機・プリンター
- 書庫(個人情報などの保管に使用) など
車両関連費
訪問看護事業では賃貸料を抑えられる代わりに、訪問用の車両関連費として月額10~30万円ほどの費用が発生します。
例えば、新車の軽自動車を2台用意する場合は200万~300万円ほどです。自転車であれば2台で2~3万円ほどかかるでしょう。
車両代のほか、月々のガソリン代・駐車場代や、年間の車検・保険料・重量税なども見込んでおく必要があります。
また、訪問看護ステーションのロゴを車にプリントする場合、デザイン料やプリント料が別途5万~10万円ほどかかります。
指定申請手数料・法人設立の登録費
訪問看護事業をスタートさせるためには、自治体への指定申請手数料として3万円ほどかかります。手数料は自治体によって異なるため、所在地の自治体で具体的な金額を確認しておきましょう。
また、指定訪問看護ステーションの許可を受けるには、訪問看護事業を行う旨の記載がある株式会社・合同会社・NPO法人を設立するか、もしくは既存の法人で事業目的を変更する必要があります。
法人設立には登録免許税・定款認証費・印紙代などがかかり、費用は法人の種類により異なります。
- 株式会社:約25万円~
- 合同会社:約10万円~
- NPO法人:非課税で費用は0円
NPO法人の設立登記は無料ですが、手続きには最低でも3か月以上かかります。訪問看護事業の目的や予算に応じて、法人の種類も検討すると良いでしょう。
広告宣伝費
求人広告やパンフレット・看板の作成など、広告宣伝費として50万円ほど必要です。
SNSを使った求人募集は無料で宣伝できるため経費削減になりますが、利用者層によってはインターネット広告よりも、ポスターやパンフレットの方が効果のあるケースもあります。予算と期待する効果のバランスを考慮し、広告宣伝費を決定しましょう。
運転資金
これらの準備費用とは別に、当面の運転資金を用意する必要があります。
開業初期は利用者数が少なく収入も限られますが、人件費や事務所の家賃・水道光熱費・通信費・消耗品費・雑費などの経費は支払わなければなりません。
仮に月の売上を400万円程度とすると、人件費のほかに月々50万円ほどかかることを念頭に置いておきましょう。
訪問看護サービスの提供には時間がかかり、介護報酬や診療報酬は実際の提供から約2か月後に入金されるケースが多いため、少なくとも3か月~半年分の150万~300万円ほどを運転資金として見積もっておくと良いでしょう。
訪問看護ステーション開業時の資金調達方法
訪問看護ステーション開業の資金の用意は、自己資金と金融機関からの融資を組み合わせる形が一般的です。
開業時の資金調達方法として、金融機関からの融資と、日本政策金融公庫からの創業融資の2つの方法について解説します。
近隣の金融機関からの融資
一つは、銀行・信用金庫などの金融機関へ相談し、事業向けの融資を受ける方法です。
融資を受ける際には、訪問看護ステーションの収益見込みや経営計画についての資料を用意する必要があります。
自己資金の額や、看護師や管理者としての経験も融資の審査に影響するため、事前に入念に準備しておくことが大切です。
日本政策金融公庫からの創業融資
日本政策金融公庫は、中小企業や農林漁業者などの事業者向けに、資金調達のための融資を行っている政府系金融機関です。
介護事業や訪問看護を含む介護分野において、創業を支援する融資プログラムを積極的に実施しています。
特に、長期の資金調達が必要な場合に利用しやすく、女性向けや若者・シニア起業家向けの支援資金制度も用意されています。
訪問看護の開業資金に活用できる助成金
2023年時点で訪問看護に特化した助成金は限られており、基本的には雇用関連の助成金を活用する流れとなります。
訪問看護事業所でも取得可能な「雇用・労働関連の助成金」として、次のような制度があげられます。
- 業務改善助成金
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- 両立支援等助成金
- 65歳超雇用推進助成金
- 働き方改革推進支援助成金 など
これらの助成金を活用することで、訪問看護の開業資金・運転資金を補填できる可能性があります。
ただし、助成金は申請準備から受給までに時間を要するため、受給できるのは訪問看護事業の開業1年後以降になるケースが多いです。よって、開業資金のすべてを助成金でまかなおうとする考えは少々危険かもしれません。
また、設立や助成金の申請手続きなどには、財務面も含めて多くの管理事項があるため、訪問看護の開業や経営に関する専門家のサポートを受けることがおすすめです。
出典:令和5年度【雇用・労働分野の助成金で訪問看護事業所が取得できる可能性が比較的高いと考えられるもの】|一般社団法人全国訪問看護事業協会
訪問看護ステーション開業で資金調達する際の注意点
訪問看護ステーション開業で資金調達する際には、次の3点に注意しましょう。
事業の規模にあった融資金額を算出する
金融機関からの融資を利用する際には、借り入れた金額に対して利息を支払い、計画的な返済が必要です。
十分な資金がない場合、事業経営に支障が生じたり余計な利息が発生したりする可能性もあるため、事業規模にあわせた借入額を検討し、計画的な資金調達を行いましょう。
説得力のある事業計画書・収支計画書を作成する
融資を受けるためには、事業計画書や収支計画書を作成し、事業の見込みや融資額の妥当性を説明する必要があります。
説得力に欠け、現実的でない予測が多い場合、融資を断られるケースもあるため、慎重に準備しましょう。
経営者個人の資産の状況を確認されることがある
訪問看護は他の業種に比べて、比較的少額の資金で開業できます。ただし創業時は、金融機関側としては実績のない企業に融資することになることから、経営者個人の資産状況などが調査されることもあることは念頭に置いておきましょう。
事業を開始する際に経営者がどれだけ自己資金を投入するかを詳細に確認されるため、的確に答えるためにも、自身の資産状況を明確に把握しておくことが重要です。
まとめ
訪問看護の開業・立ち上げに必要な資金の目安は、エリアや規模によっても異なりますが、800万~1,500万円ほどです。内訳として、開業準備の初期費用として500万〜800万円ほどと、最低でも3か月~半年分の運転資金300万〜500万円ほどは見積もっておいた方が良いでしょう。
訪問看護開業時に資金調達する際には注意点もあるため、不安がある場合は専門家へ相談することがおすすめです。
アステージ社労士・行政書士事務所が運営する介護事業開業サポートセンターでは、新たに訪問看護/介護・福祉事業を始める方々に対し、事業の立ち上げから運営まで包括的なサポートを提供しています。
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執筆者情報

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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
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