訪問看護の給与計算の方法は?注意点や効率的な計算方法も解説
- 2023.08.09
大阪を中心に介護・福祉事業の起業を考えている方、すでに開業している方向けのサポートを行っている、アステージ社労士・行政書士事務所です。
訪問看護を運営するにあたって欠かせないのが、従業員の給与計算です。しかし、これまで訪問看護の運営に関わった経験がないと、どのように進めていけばよいのかわからない方が多いのではないでしょうか。
本記事では訪問看護の一般的な給与計算方法について、注意点や効率的な方法と一緒に解説します。
訪問看護における基本的な給与計算の方法
訪問看護を運営する際は、看護師を始めとする従業員へ給与を支払います。労働の対価となるもののため、給与計算でミスは許されません。ミスがあると従業員からの信用を失い、事業所としての運営に支障が生じる可能性があるでしょう。
総支給額から控除額を引いたものが差し引き支給額で、従業員の手取りとなります。
以下で総支給額や控除額、差し引き支給額の詳細を紹介します。
総支給額の計算方法
総支給額とは、基本給と各種手当を合計した金額のことです。基本給は年齢・勤続年数・役職・スキルなどから決定され、一般的には企業や事業所ごとに基本給表があります。
以下は各種手当の例一例です。
通勤手当
役職手当
家族手当
住宅手当
残業手当
オンコール手当
通勤手当はマイカー通勤が4,200円~3万1,600円(通勤距離によって異なる)、公共交通機関での通勤は15万円までが非課税ですが、他の手当は基本的に課税対象です。
残業手当の計算には、割増率が適用されます。具体的な率は労働の種類によって異なり、以下は一例です。
労働の種類 |
割増率 |
法定労働時間内 |
0% |
法定労働時間外 |
25% |
法定労働時間外の22時~5時まで |
50% |
法定休日 |
35% |
法定休日の22時~5時まで |
60% |
たとえば、所定労働時間が9:00~17:00までで、その内、休憩時間が1時間だったとします。9:00~17:00までの所定労働時間は7時間で、17:00以降の残業手当の割増率は次の通りです。
17:00~18:00は割増率0%
18:00~22:00は割増率25%
22:00~5:00は割増率50%
1日の労働時間が8時間以内でも、1週間あたりの労働時間が40時間を超えたときは、残業手当の支払いが必要です。また2023年4月1日より、残業が月60時間を超えた場合は、大企業と中小企業の両方で割増率が50%となりました(中小企業の割増率が25%より引き上げ)。
参考:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
参考:厚生労働省「7.時間外、休日及び深夜の割増賃金」
参考:厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
控除額の計算方法
控除額とは税金と社会保険料といった、総支給額から一定の金額を差し引くものです。また労使協定を締結すると、財形貯蓄や労働組合費、社宅・寮費なども対象となります。
税金に該当するのは、次の2つです。
住民税
源泉所得税
住民税の金額は、市区町村役場から送られてくる住民税特別徴収税額の通知書に記載されています。また源泉所得税は国税庁の源泉徴収税額表によって、具体的な納税額がわかります。
社会保険料に該当するのは、次の4つです。
健康保険料
介護保険料
雇用保険料
厚生年金保険料
健康保険料の従業員負担分は「標準報酬月額×保険料率÷2」で計算可能です。標準報酬月額は全国健康保険協会で、保険料率は各都道府県でそれぞれ定められています。
介護保険料の計算方法は健康保険料と同じですが、保険料率は1.82%(2023年3月分)で統一されています。
雇用保険料の負担割合は従業員と事業主で異なるため、注意しましょう。2023年度の雇用保険料率は15.5%で、従業員が6%、事業主が9.5%です。
厚生年金保険料の計算方法も健康保険料と同じで、保険料率は18.3%です。
差し引き支給額の計算方法
総支給額から控除額を引いたのが、差し引き支給額です。手渡しや銀行振込によって、従業員へ支給します。
訪問看護の主な時給計算方法2つ
訪問看護では、時給で働くパートの看護師も少なくありません。時給計算の方法として主に勤務時間と訪問件数の2つがあり、事業所によって方法は異なります。
勤務時間で計算すると、勤務時間内に何件の利用者宅を訪問しても、一定の給与となるでしょう。訪問件数で計算する場合は、訪問先が多くなればなるほど時給が高くなりますが、反対に件数が少なくなると、時給は下がってしまいます。
1時間あたりの訪問可能件数や移動時間などを含めて、どちらがよいのか総合的に判断する必要があるでしょう。
問看護における給与計算の注意点
訪問看護で給与計算する際は、いくつか注意しておきたい点があります。主な点は次の4つです。
ダブルチェックを徹底する
給与計算するときは、ダブルチェックを徹底しましょう。入力ミスや計算ミスが起こると、正確な額の給与が従業員へ支払われなくなります。
ヒューマンエラーを完全に防ぐことは難しいですが、ダブルチェックによって入力ミスや計算ミスを極力減らせます。
残業手当の割増率を正確に適用する
前述したように、残業手当は労働の種類によって割増率が異なります。そのため、割増率を正確に適用しましょう。
特に24時間対応している訪問看護事業所の場合は、深夜残業となる可能性があります。従業員の勤務時間を正確に把握しておくことが大切です。
最新の法改正をキャッチする
適切に給与計算するためには、最新の法改正をキャッチすることが欠かせません。
税金や社会保険料は、法改正によって金額や率が変更することが多々あります。また2024年10月より社会保険の適応が拡大されるなど、制度自体の見直しがされることもあるでしょう。
参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」
最低賃金を守る
最低賃金とは事業主が従業員へ支払わなければいけない、賃金の最低額のことです。最低賃金法に基づいて、国が具体的な金額を定めています。
定められた金額以上を支払わない場合は、50万円以下の罰金に科される可能性があるため、必ず守りましょう。地域別に最低賃金が決まっており、2023年8月時点で大阪府は1,023円です(2022年10月1日発効)。
また厚生労働省は2023年7月28日に、10月からの地域別最低賃金額改定の目安を発表しました。大阪府は41円のAランクに該当しています。
参考:厚生労働省「地域別最低賃金全国一覧」
参考:厚生労働省「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について」
訪問看護の給与を効率的に計算する方法
訪問看護の給与を効率的に計算するためには、次のような方法が考えられます。
給与計算ソフトの活用
社会保険労務士への依頼
給与計算ソフトは勤怠データをもとに、総支給額・控除額・差し引き支給額などを自動で計算してくれます。デジタル化によって、ファイリングの手間や紛失の心配がなくなるのもメリットといえるでしょう。
一方で導入時の初期設定や操作方法の習得に手間がかかり、またサイバー攻撃による不正アクセスといったセキュリティリスクがゼロではありません。ほとんどの給与計算ソフトはセキュリティ対策が施されていますが、セキュリティに関する最低限の知識が必要です。
社会保険労務士事務所の中には、給与計算のアウトソーシングに対応しているところがあります。面倒な給与計算を外注することで、本来の訪問看護事業に専念できるメリットが生まれるでしょう。
まとめ
訪問看護における給与計算方法は、他の事業と基本的には同じです。ただし、24時間対応している場合は深夜残業となる可能性があるため、勤務時間の正確な把握を心がけましょう。
アステージ社労士・行政書士事務所では訪問看護を含む、介護障害福祉事業所の開業や運営に関する手続きなどをトータルサポートしています。給与計算のアウトソーシングも行っており、給与計算ソフトの導入や保守費用が不要です。
これから訪問看護の開業を予定している方、給与計算でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者情報
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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
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