介護福祉事業所で人事評価・考課を導入しよう!制度の概要を解説
- 2024.02.28
大阪を中心に介護・福祉事業の起業を考えている方、すでに開業している方向けのサポートを行っている、アステージ社労士・行政書士事務所です。
「人事評価制度を導入しようかどうか迷っている」「そもそも、どのような制度なのかわからない」などと思っている、施設・事業所の担当者はいませんか?人事評価・考課を採用している介護福祉事業所は増えていますが、導入前に概要や始め方を理解しておくことが大切です。
本記事では介護福祉事業所における人事評価・考課の概要について、導入するメリットやデメリット、導入するためのステップなどと一緒に解説します。
介護福祉事業所における人事評価・考課制度とは
人事評価・考課制度とは、企業や組織が設けた評価基準に沿って、従業員の実績や能力を査定する制度のことです。四半期や半期、1年に1回など、一定の期間における実績・能力を評価し、給料や等級決定における重要な判断材料となります。
特に措置制度がとられていた時代には、人事評価・考課を導入していなかった介護福祉事業所が多く見られていました。しかし「安定した収益を確保できない」「人材を確保しにくい」といった、介護福祉事業所を取り巻く昨今の厳しい事情から、制度を取り入れるところが増えてきています。
主な評価基準
評価基準とは、従業員の成果を客観的に測定するための指標のことです。業績評価や対人スキルなど、多くの要素が考慮されます。具体的な基準は企業や組織の目的や目標などによって、自由にカスタマイズされるのが特徴です。
たとえば、介護福祉事業所特有の評価基準としては、以下のようなものが挙げられるでしょう。
・コミュニケーション能力
・チームにおける協調性
・利用者の自立を支援する力
・エビデンスに基づいた専門性
・リーダーシップ
一般的な評価基準だけでなく、業界特有の基準も適時盛り込むことで、より効果的な評価基準が完成します。
主な評価方法
主な評価方法として、以下のようなものが挙げられます。
・能力評価
・自己評価
・360度評価
・資格取得といった実績
能力評価は、業務の遂行に必要な能力を持っているかどうかを評価する方法です。知識やスキルなどが評価対象となり、さらにそれらを効果的に発揮できているかどうかをチェックします。
自己評価はその名称どおり、個々の従業員が自分自身のことを評価する方法です。評価者が一方的に評価すると主観が入ってしまいがちですが、自己評価を取り入れることでより客観的に判断できるようになります。
上司や同僚、部下など、異なる立場の人たちが多角的に評価するのが、360度評価です。一人の評価者だけでなく、多くの人たちが評価するため、公平で客観的な評価内容となるでしょう。
また業務に役立つ資格取得といった実績を、評価の対象とする方法もあります。
介護福祉事業所で人事評価・考課を導入するメリットとデメリット
介護福祉事業所で人事評価・考課を導入すると、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。以下で主なものを見ていきましょう。
メリット
主なメリットは次の3つです。
施設・事業所の理念やゴールを共有できる
利用者の満足度を上げ、業績を高めていくためには、施設・事業所の理念やゴールをスタッフ間で共有することが欠かせません。
そもそも人事評価・考課は理念やゴールの達成を前提とした制度であり、評価基準の中に理念・ゴールに直結する要素が盛り込まれます。そのため、人事評価・考課を運用していくこと自体が、スタッフ間における理念やゴールの共有に役立つでしょう。
スタッフのキャリアアップにつながる
人事評価・考課の目的のひとつが、スタッフのキャリアップや定着です。
制度の導入後は一人ひとりの現状に即して目標や課題を設定し、評価者と定期的にふり返ります。課題克服に向けた評価項目を設定して実践するため、スタッフのキャリアアップにつながるでしょう。
また個々のスキルが向上すれば、施設・事業所全体のサービスの質も大きくアップします。
離職率が低下する
スタッフ個々の働きを適切に評価できる仕組みをつくることで、「もっと頑張ってキャリアップしたい」「給与をアップさせたい」など、仕事に対するモチベーションがアップします。
そして、高いモチベーションで働き続けられるため、離職率の低下が期待できるでしょう。
デメリット
導入にはメリットだけでなく、以下のようなデメリットがある点も理解しておきましょう。
定量評価ができない
介護職や看護師といった、特に現場で利用者と接している職種では、仕事の成果を数字では評価できません。
利用者の満足度や介護・支援スキルなどの評価は、定量評価よりも難しいのが実際です。そのため、評価の基準や方法が明確化されていないと、スタッフの不満につながりかねないでしょう。
導入と運営に時間と手間がかかる
人事評価・考課制度を導入するためには、評価基準や方法を決めたり、記入しやすい人事評価シートをつくったりしなければいけません。また導入後も評価する側と評価される側が定期的に面談し、評価する側は評価会議などに参加をして、評価した内容を説明する必要があります。
特に制度の運用が軌道に乗るまでは、担当者への負担が大きくなることが予想されるでしょう。
介護福祉事業所における人事評価・考課のポイント
介護福祉事業所で人事評価・考課をする際は、次で述べる2つのポイントに留意しましょう。
わかりやすい評価ルール・基準を設ける
人事評価・考課は、公正で公平な制度でなければいけません。あいまいな基準や評価方法のままで運用すると、評価者の考え方・ルール・好みなどに依存されやすく、スタッフの不満につながります。
またひとつの施設や事業所に介護職・看護師・相談員・事務員といった業務内容が異なる複数の職種が存在する場合も、それぞれの業務内容や資格などをトータルで見て、統一された基準・方法に基づいた内容にすることが大切です。
誰が見てもわかりやすく、評価結果の理由に納得できるようなルール・基準を設けることを意識しましょう。
キャリアアップに向けた仕組みを取り入れる
研修やOJTが充実していても、スタッフ一人ひとりのキャリアップに着目した仕組みがないと、適切な成長を促せません。昇級や昇格のために必要な能力や要件が明確化されていないと、どのように頑張ればよいのかがわからず、モチベーションの低下や離職につながります。
また処遇改善加算の算定要件として「キャリアパス要件」があります。キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲに分けられ、それぞれの主な内容は次のとおりです。
要件の種類 |
内容 |
キャリアパス要件Ⅰ |
役職や仕事内容に応じた賃金体系を整備している |
キャリアパス要件Ⅱ |
スキルアップを目的とした研修のほか、資格取得に向けた福利厚生などを整備している |
キャリアパス要件Ⅲ |
所有資格や経験年数に応じた昇給制度を整備している |
人事評価・考課制度を設けたり、評価に基づく昇給制度を取り入れたりすれば、処遇改善加算の対象となるでしょう。そのため、個々のキャリアアップに向けた仕組みを、人事評価・考課の中に設けることが必要です。
参考:厚生労働省「処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)」
介護福祉事業所で人事評価・考課制度を導入するステップ
介護福祉事業所で人事評価・考課制度を導入する際は、以下で紹介する5つのステップを参照にするとよいでしょう。
①制度の目的を定める
まずは、人事評価・考課制度を導入する目的を定めます。
施設や事業所ごとにある理念やゴールを踏まえて「人事評価・考課を通して何を達成したいのか」「どのような人材を評価しようとしているのか」などを明確化させましょう。
②職能要件や評価基準を明確にする
施設や事業内で複数の職種が勤務している場合は職種別に、さらに等級別に求められる職能要件を定めます。厚生労働省では職能要件の決定に役立つ職業能力評価基準を公表しているため、参考にするとよいでしょう。
また前述した、評価基準を明確にすることも大切です。
参考:厚生労働省「職業能力評価基準」
③評価方法を明確にする
先で述べたように、評価方法には複数の種類があります。
どのような評価方法を用いるのかを検討し、さらに評価者や評価回数なども決めておきましょう。
④処遇内容を決める
評価をクリアしたスタッフ、クリアできなかったスタッフに対して、昇給やボーナスといった処遇内容を決めます。
処遇に関する内容は、あらかじめ就業規則や賃金規定に表記しておくことで、スタッフにもわかりやすく伝えらえるでしょう。
⑤スタッフへ周知する
運用内容が定まったら、スタッフへ周知します。文書を作成するだけでなく、会議や説明会などを設けて、直接内容を伝えられるとよいでしょう。
また評価者向けに研修や勉強会などを開催し、適切に評価できるよう知識を身に付けておくことも必要です。
まとめ
人事評価・考課制度とは、あらかじめ定めた評価基準や評価方法によって、従業員の実績や能力を査定する制度のことです。昨今の厳しい情勢を受けて、介護福祉事業所でも人事評価・考課を導入するところが増えてきました。
導入する際は、誰がみてもわかりやすい評価ルールや基準を設けましょう。またキャリアアップに関する仕組みを整備することで、処遇改善加算のキャリアアップ要件をクリアできます。
アステージ社労士・行政書士事務所では、介護福祉事業所における人事評価・考課制度の構築や運用の支援、賃金制度の見直しといったコンサルティングを行っています。「人事評価制度・賃金制度」のページでも制度について解説しているため、ぜひご覧ください。
執筆者情報
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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
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