訪問看護/介護・福祉事業における運営指導(実地指導)対策について
- 2023.09.01
著:株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役兼ISO9001審査員 西村栄一
1 運営指導(旧実地指導)の重要性
「実地指導対策」は、介護経営していく上で最も重要な基盤といって過言ではありません。
「あれ?利用者がいて、介護職員がいれば、介護は成り立つんじゃないの」
「そもそも介護は制度よりも先に人間としてあるべき生き方から自然に生まれてくるもの」
等ご意見もあるかもしれません。無償で行うそれであれば充分に成り立つでしょう。
しかし、そこには「介護保険制度」という「公助」の下に国民の税金と国の財源をもってサービス提供者・事業者に給付され、しかもその割合は9割〜7割を国の財源で担保されています。
それは、従わなければならない厳正なルールであることは自然に理解できるはずです。
にもかかわらず、前述のような声と共に、
「私たちは介護という枠に縛られず、自由に利用者のためにサービスを・・」
という声もよく聞かれます。
それならば、利用者からサービス料を10割いただければ成り立つのです。
しかも、そういう自由な介護を求められる方ほど、こういう質問に答えられないことが多いです。
「身体介護を1時間行ったら、大体いくらか知っていますか?」と。
繰り返しますが、介護保険で給付されるほぼ9割は国からのお金です。そこを履き違えないよう、介護経営・サービス提供に努めていただければ幸いです。(身体介護1時間の答え:約4000円です。)
最近は、昔に比べると、全体的に高齢化が進んでいるせいか「優しい空気」が広がっている気がします。特に、パワハラ問題やコンプライアンスの徹底が、世の中の規範になっているため、行政からの「法律を守れ」と厳正に高らかに言われる実地指導の検査官も少なくなりました。
なので、このコラムでは、私が行政に代わって、実地指導Xデーが来る日に備えて、毎日指差し確認をするくらい、いざ、指摘されても、びくともしない事業所経営ができるように、安全確実な運営が継続されることをお伝えしようと思います。
2 指導と監査の違い
「実地指導」と「監査」。
よく混同、誤解される言葉です。
実際に、行政から通知が届いて開封してみたら「書面指導」「書面監査」「実地監査」「実地検査」等、通知する側もよくわかっていないのか、それとも、通知される側をわざと煙に巻いているのかと疑うものもよく見かけます。
正式には、その違いについて「介護サービス事業者等指導及び監査実施要綱」の「趣旨」にて、「介護保険法第24条の規定により第26条の規定による旧介護保険法第24条、第76条、第90条、第100条、第114条の2、第115条の7、第115条の33、第112条並びに生活保護法第54条の2の規定に基づき、指導及び監査について、基本的事項を定める。」として、以下のように定められています。
<実地指導の目的>
介護サービス事業者等に対して行う介護給付等に係る介護給付等対象サービスの介護報酬の請求等に関し、法令、通達に対する適合状況等について、個別に明らかにし、利用者の自立支援及び尊厳の保持を念頭において、介護サービス事業者等の支援を基本とし、介護給付等対象サービスの質の確保及び保険給付の適正化を図ることを目的とする。
<監査の目的>
介護給付等対象サービスの内容、介護報酬の請求及び業務管理体制の整備に関し、法に定める勧告、命令、指定取消処分等に該当する場合、又は介護報酬の請求について、不正若しくは著しい不当が疑われる場合において、事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置を採ることを主眼とし、介護給付等対象サービスの質の確保、保険給付の適正化及び業務管理体制の適正な整備運用を図ることを目的とする。
簡単にいうと、実地指導は事業運営を進めていくための健康診断みたいなもの。監査はその目的に頻繁に出てくる「不正」を暴くためのもの。と理解していていいと思います。
さらに、監査には「聴聞」というイベントもセットでついてきます。これはまた追って事例をあげさえていただきます。
まず、私が伝えたい健康診断の「実地指導」の基本3つを先に、明日からでも着手してください。
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これらは習性にしてください。
実際に、実地指導の最初の15分で、記録や帳票類をパラパラと見ただけで、当該事業所のレベルがわかるからです。
最初に見せる書類といったら、まずは「人事関係」。「雇用契約書」または「労働条件通知書」。そして、勤務形態一覧表、要するに「シフト表」とそれにともなう「出勤実績」や「賃金台帳」等ですね。
特に、前者。雇用契約書が法人全体のものであることが多く、介護保険制度における指定事業所の管理下における「職責」の名称になっていない点が多く指摘されます。たまに、代表の方もヘルプでシフトに名前を連ねておられることもあったりしますが、そういう代表でも「雇用契約書」が必要です。
雇用契約書の欄には「職責(業務内容):非常勤介護職員」と明記された上で、その法人代表の欄にも同じ名前を書くという「業務命令者」と業務命令を受けるものが「本人」という違和感もあるかもしれませんが、これがこの制度なのです。
そして、この時点で、まさかの「日付抜け」や「空欄」が多発していないことを確認しておいてください。もし、そうであれば、つまり最初の15分で、検査官は、この後の数時間を厳しく見ていくのか、どうするのか判断するのです。
身近な例で、みなさんも食事をするのに入ったお店で、肌感覚でわかりますよね。人は、日常業務で慣れていることに対して、自然とどう対峙していくか、肌感覚でわかるものなのです。ご注意ください。
既述していますが、「実地指導は健康診断みたいなものだから、いつ来られても自分たちのやっていることに自信を持って・・」と根拠のある健康への自信ならいいのですが、介護の実態としてのお勉強もせずに、法律を読みもせずに、実地指導とはいえ、軽く考えるのは注意しておきたいです。
事実上の「立入検査」「監査のための視察」と考えておいた方がいいです。
3 おわりに
今回のコラムでは、訪問看護/介護・福祉事業における運営指導(実地指導)対策の重要性やポイントについて解説してきました。
アステージ社労士・行政書士事務所の介護事業開業サポートセンターは、運営指導(実地指導)専門コンサルタントと提携しております。運営指導(実地指導)に関する不安をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
執筆者情報
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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
「介護事業開業サポートセンター」では、これから介護・福祉事業をスタートされる方および既に開業されている方の為に必要な手続きをトータルでサポートしております。
介護・福祉事業の創業を数多くお手伝いしている実績をもとに、法人設立・指定申請などの手続き、助成金や融資、開設後の運営もご相談頂ける「身近な専門家」として、常にお客様の立場に立ったサービスを心がけ、全力でお手伝いさせて頂きます。