訪問看護で行うべき実地指導対策とは?必要書類や確認事項と対策のポイント
- 2023.12.18

訪問看護事業の運営では、介護保険法・健康保険法の遵守が求められ、行政は各事業所の適正な運営状況を確認するために、定期的な実地指導(運営指導)を行っています。
実地指導(運営指導)で運営基準や請求の規則に違反が発覚した場合、報酬の返還や指定申請の一部停止、指定の取消などの行政処分の恐れもあるため、実地指導に備えた対策が必要です。
本記事では、訪問看護の実地指導で対策すべき確認事項と、必要書類・実地指導の流れ・対策を行う上でのポイントについて解説します。
訪問看護/介護・福祉事業全般の実地指導対策については、こちらもあわせてご覧ください。
関連記事:訪問看護/介護・福祉事業における運営指導(実地指導)対策について
訪問看護の実地指導(運営指導)とは
訪問看護の実地指導とは、行政が訪問看護などの介護・福祉事業者に対し、運営の適正化を図る目的で行う指導です。
2022年よりオンラインツールによる指導が導入され、それまで「実地指導」と呼ばれていたものが、「運営指導」の呼び方に変更されました。
具体的には、介護保険法の第二十三条・第二十四条にて以下のような内容が定められています。
- 市町村は、保険給付に関連するサービスや住宅改修を必要と認める場合、関係者に文書や物件の提出を求め、質問や照会を行うことができる
- 厚生労働大臣や都道府県知事は、介護給付に関連する場合、居宅サービスの提供者または使用者に対し、報告やサービス提供の記録などの提出を求め、職員に質問する権限がある
指導方法には「集団指導」と「運営指導」があり、集団指導は年に1回以上、運営指導は施設ごとに6年間に1回以上の頻度で実施されます。この結果に基づき、「指導なし」または程度に応じた「文書指導」「口頭指導」「助言」が行われます。
監査との違い
訪問看護における監査は、指定訪問看護の内容や訪問看護療養費の請求に関して、不正または著しい不当が疑われる場合に、事実の把握と公正で適切な対策を取るために行われます。
実地指導(運営指導)が「違反や指導すべき箇所がないかを確認するための検査」とすると、監査は実地指導で違反や不正請求が疑われた場合に「違反事実を明らかにするもの」である点が大きな違いです。
監査で不正が明確になった場合、報酬の返還や指定申請の一時停止・完全停止・取り消しなどの行政処分が課せられるケースもあります。
訪問看護の実地指導で対策すべき3つの確認項目
訪問看護の実地指導の対策として、次の3つの確認項目があげられます。
- 訪問看護サービスの実施状況
- 最低基準等運営体制
- 報酬請求
一つずつ解説します。
1. 訪問看護サービスの実施状況
訪問看護サービスの実施状況指導では、施設設備やサービス提供の状況の確認や、利用者に対する適切なサービスの提供が行われているかがチェックされます。
具体的には、ケアマネジメント・プロセスに基づくサービスの確認に加え、特に訪問看護のような居住系サービスでは、利用者の生活実態の把握に基づき、サービスの適正性の確認が行われます。
2. 最低基準等運営体制
最低基準等運営体制指導では、訪問看護サービスの品質を保障するために必要な基準を満たしているかが調査されます。
人員基準に従った勤務体制や災害時の対策マニュアルの整備、訓練の実施などが確認対象となります。
3. 報酬請求
報酬請求指導は、訪問看護の介護報酬の算定や請求が、実際のサービス提供に基づいて正確に行われているかどうかの調査です。
例えば、記録や請求記録をもとに、架空請求や加算の算定基準未満の請求など不正な請求がないかといった確認が行われます。
訪問看護の実地指導時の必要書類
訪問看護の実地指導時に用意すべき必要書類は、以下の通りです。
【個別サービスの質に関する書類】
- 重要事項説明書
- 利用契約書
- サービス担当者会議の記録
- 居宅サービス計画
- サービス提供記録
- 訪問看護計画
- アセスメントシート
- モニタリングシート
- 訪問看護報告書
【個別サービスの質を確保するための体制に関する書類】
- 勤務実績表/タイムカード
- 勤務体制一覧表
- 従業者の資格証
- 管理者の雇用形態が分かる文書
- 管理者の勤務実績表/タイムカード
- 介護保険番号、有効期限等を確認している記録等
- 請求書
- 領収書
- 緊急時対応マニュアル
- サービス提供記録
- 運営規程
- 雇用の形態(常勤・非常勤)がわかる文書
- 研修計画、実施記録
- 方針、相談記録
- 業務継続計画
- 研修及び訓練計画、実施記録
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延防止のための対策を検討する委員会名簿、委員会の記録
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための指針
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修の記録及び訓練の記録
- 個人情報同意書
- 従業者の秘密保持誓約書
- パンフレット/チラシ
- 苦情の受付簿
- 苦情者への対応記録
- 苦情対応マニュアル
- 事故対応マニュアル
- 市町村、家族、居宅介護支援事業者等への報告記録
- 再発防止策の検討の記録
- ヒヤリハットの記録
- 委員会の開催記録
- 虐待の発生・再発防止の指針
- 研修計画、実施記録
- 担当者を設置したことが分かる文書
運営指導時には、訪問看護のサービス提供や組織運営に関するさまざまな書類の提出が求められます。
なお、記録は電子データで保管されている場合には印刷して用意する必要はなく、PDFによる提出も認められています。
訪問看護の実地指導(運営指導)の流れ
訪問看護の実地指導(運営指導)は、以下の流れで行われます。
- 通知が届く
通常1カ月前に通知があり、事前に書類の提出が必要です。
- 実地指導当日の対応
運営指導当日は、先述の3つの確認項目について調査が行われます。
- 指導結果が届く
後日、指導結果が通知され、問題があった場合は改善指導や報告書の提出が求められます。指導内容に従わない場合、指定の停止や取り消しの可能性もあるため迅速に対応しましょう。
訪問看護の実地指導対策を行う上での5つのポイント
訪問看護の実地指導対策を行う際には、次の5つのポイントを押さえることで、法令の遵守とスムーズな準備につながります。
- チェックリスト(自己点検票)で内部監査を提起的に実施する
- 日頃から帳票や記録を整理する
- 帳票の記載ルールを周知徹底する
- 改訂されたマニュアルや規定は、都度差し替える
- 専門家のサポートも活用する
各ポイントを詳しく見ていきましょう。
1. チェックリスト(自己点検票)で内部監査を定期的に実施する
チェックリスト(自己点検票)は、介護保険法や介護報酬算定に関する基準を満たしているかを確認するための項目をまとめたリストです。
多くの自治体では、ホームページ上で実地指導のチェックリスト(自己点検票)を公開しているため、これらを活用し、実地指導前の確認を行うと良いでしょう。
通知が届いてから実施するだけでなく、日常的に内部監査を実施し、事業所の運営状況を把握しておくことが重要です。
2. 日頃から帳票や記録を整理する
実地指導では、看護記録や請求関連などさまざまな書類の提出が求められます。実地指導がいつ行われても対応できるように、日頃から帳票や記録を整理しておくようにしましょう。
書類は月ごとに整理し、電子形式であればファイルの整理も行っておくことをおすすめします。
3. 帳票の記載ルールを周知徹底する
訪問看護計画書や報告書において、情報や項目の漏れがあると、運営指導の際に指摘を受ける可能性があります。
運営指導に備え、記録をすべて事前に確認するだけでなく、帳票の記載漏れがないように帳票の記載ルールを周知徹底することが重要です。
特に加算に関連する項目では、利用者からの同意が必要な項目もあるため、同意書の保存に関する体制などもあわせて整備しましょう。
4. 改訂されたマニュアルや規定は、都度差し替える
訪問看護事業所でマニュアルや規定を改訂した際には、都度周知する必要があります。マニュアルや規程を新しいものに差し替え、整理してファイリングしておきましょう。
5. 専門家のサポートも活用する
訪問看護/介護・福祉分野は常に変化しており、法令や規制の変更に迅速に対応するためには、専門家のサポートを活用することもおすすめします。
訪問看護の専門家やコンサルタントの協力を得ることで、最新の法令やガイドラインに基づく正確な情報やノウハウを取り入れた運営が可能になります。
アステージ社労士・行政書士事務所の「介護事業開業サポートセンター」では、専門の運営指導(実地指導)コンサルタントと提携し、サポートを行っています。実地指導に関する不安や疑問がある方は、お気軽にご相談ください。
訪問看護の実地指導における指摘事項例
最後に、訪問看護の実地指導における、2つのエリアの指摘事項例をご紹介します。実際の事例を確認しておくことで、実地指導対策をよりイメージしやすくなるはずです。
令和4年度 東京都杉並区の事例
東京都杉並区では、以下のような事例が公開されています。
指摘項目 |
指摘内容 |
サービス提供の記録について |
・サービス提供の効果や利用者・家族の満足度等に関する評価が記録から確認できなかったため、改善が必要 |
指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護の基本取扱方針について |
・指定巡回・対応型訪問介護看護の提供において、目標達成の評価が行われていなかったため、改善が必要 |
秘密保持等について |
・従業者(代表者)の秘密保持誓約が行われていなかったため、改善が必要 |
事故発生時の対応について |
・区への事故報告書の提出が行われておらず、改善が求められます |
出典:実地指導における主な指摘事項|杉並区 保健福祉部 介護保険課
令和4年度 北海道函館市の事例
北海道函館市の事例は、以下の通りです。
指摘項目 |
指摘内容 |
過誤調整 |
・准看護師が指定訪問看護を行った際の報酬の算定において過誤があった |
サービス提供体制強化加算 |
・看護師等ごとの研修計画が作成されていない事例が見られた |
複数名訪問加算 |
・同時に複数の看護師等がサービス提供を行う際、利用者の同意が得られていない事例があった |
出典:実地指導における 主な指摘事項について|函館市保健福祉部指導監査課
まとめ
訪問看護の実地指導(運営指導)は、行政が事業者に対して、運営の適正化を促進するために実施される調査・指導活動です。
法令を理解し、適切な運営を意識して常に整備された体制を維持することが重要です。
書類の作成や整理、チェックリスト(自己点検票)の活用など、指導に備えた準備を日常から行いましょう。
アステージ社労士・行政書士事務所の「介護事業開業サポートセンター」では、運営指導専門のコンサルタントと提携した運営サポートも行っています。
訪問看護/介護・福祉における幅広い経験を有する当事務所へ、お気軽にご相談ください。
執筆者情報

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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
「介護事業開業サポートセンター」では、これから介護・福祉事業をスタートされる方および既に開業されている方の為に必要な手続きをトータルでサポートしております。
介護・福祉事業の創業を数多くお手伝いしている実績をもとに、法人設立・指定申請などの手続き、助成金や融資、開設後の運営もご相談頂ける「身近な専門家」として、常にお客様の立場に立ったサービスを心がけ、全力でお手伝いさせて頂きます。