訪問介護のBCP策定の手順やポイント!2024年4月の義務化へ向けた対策
- 2024.02.26
2024年4月より、介護施設や訪問介護などの介護事業所における「BCP(事業継続計画)」の策定が義務化されます。
BCPは感染症や自然災害などが発生した場合に、業務中断などの損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を早急に行うための計画書です。
BCPの完全義務化がスタートするまでに、すべての介護事業所はBCPを策定する必要があり、運用基盤を構築するためにも早めの準備が求められます。
この記事では、訪問介護のBCP策定の手順やポイント、2024年4月の義務化に向けた対策について解説します。
訪問介護のBCP(事業継続計画)とは
BCPとは、「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略称です。
中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」では、BCPについて以下のように記載されています。
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。 |
BCP策定は、政府によって業種を問わずすべての企業に推奨されており、訪問介護をはじめとする介護・福祉事業も対象となります。
介護サービスは要介護者や家族の生活に欠かせないものであるため、介護施設や事業所は災害時に適切な対応を行い、その後も利用者に必要なサービスを持続的に提供できる体制を築く必要があります。
2024年4月から介護サービス事業者のBCP策定が義務化へ
2021年(令和3年)4月に行われた介護報酬の改定に伴い、2024年4月からは施設系や在宅系を問わず、介護サービスを提供する全ての事業所においてBCPの策定が義務化されることになりました。
2021年から2024年3月末までの3年間は「経過措置期間」となっていましたが、2024年4月より完全義務化となります。
特に、訪問介護は利用者の在宅生活に直接関わるサービスであり、サービス提供の中断は生活に大きな影響を与える可能性があります。
義務化がスタートするまでは努力義務とされていますが、予期せぬ状況に備えて、BCPの早急な作成と利用者の安全な在宅生活を守るための体制整備が急務といえます。
訪問介護でBCPを策定しないとどうなる?
介護福祉事業所におけるBCP(事業継続計画)の作成義務として、介護サービスごとに「運営基準」に記載するよう求められています。
訪問介護でBCPを策定しない場合、減算の処分となる可能性があります。
具体的には、BCP未策定の事業所は基準違反となり、その後1年の経過措置期間を経て、2025年(令和7年)4月からは業務継続計画未実施に対し、1%の減算が適用されることとなります。
なお、法人本体のBCPは法的な義務ではありませんが、作成することが望ましいです。
訪問介護におけるBCPの種類
訪問介護におけるBCPの種類は、大きく「感染症BCP」と「自然災害BCP」の2つに分けられます。ここでは、それぞれの内容を解説します。
感染症BCP
感染症BCPとは、新型コロナウイルス感染症や新型インフルエンザなどの感染症を対象とする事業継続計画です。感染症の拡大は訪問介護にも大きな影響を与えることから、事業継続や利用者の安全確保が課題となっています。
感染症の流行は不確実性が高く、またヒトへの影響が大きいため、職員確保や感染防止策の検討が重要です。
感染症BCPでは、社会的な要請への対応や感染予防対策も求められます。そのため、平時から消毒剤・不織布マスク・防護服などを備蓄し、物資不足にも備える必要があります。
出典:新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
自然災害BCP
自然災害BCPは、大地震や水害などの災害時における事業継続計画です。
災害時には利用者や職員の安全確保が最重要課題であり、訪問介護事業所では業務の継続を努めつつ、事業の縮小や閉鎖が必要な場合は、利用者への影響を最小限に抑えるための慎重な計画が求められます。
事前に代替のサービス提供先や安全な避難所の確保を検討し、迅速な安否確認と連絡体制を整え、適切な情報提供を行うことが不可欠です。施設の耐震性やハザードマップ、システム停止時のバックアップなども確認しておくと良いでしょう。
また、訪問介護事業者は社会福祉施設として、被災時に施設の機能を活かして地域に貢献する役割があります。地域の連携や他の介護サービス事業者との協力を強化し、災害時に柔軟かつ迅速に対応できる体制を整備することも重要です。
これにより、利用者への支援を継続し、最良のケアを提供するための基盤を構築できます。
出典:介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
訪問介護のBCPの考え方
意義のあるBCPを策定するためには、緊急時に事業を通常状態に戻すための手順を理解しておくことが大切です。
ここでは、感染症や災害発生後の対応方法を「確認・代替・復旧」の3段階に分けて解説します。
被害状況の確認
緊急時に最初に行うことは「確認」であり、発生した被害の実態を正確に理解することが不可欠です。
この段階で優先すべき行動は、自然災害発生時には利用者・職員の安否確認です。全体の意思決定者と各業務の担当者を明確に定め、関係者の連絡先や連絡フローを整理しておく必要があります。
大規模な感染症が発生した場合は、医療機関へ相談し指示を仰ぎ、職員に感染症の疑いがある場合は出勤を控え医師に相談すると良いでしょう。
代替手段による緊急処置
第2段階の「代替」は、大規模な災害時に不足する人員や設備を、代替手段によって緊急処置を講じることです。業務に必要な資材や設備を事前に確認し、非常時における代替手段を理解しておくことが重要です。
自然災害発生時においては、設備・機器の耐震固定や停電時のバックアップなどの事前の対策と、人命安全のルールや事業復旧のルールを確立し、初動対応を実施します。
感染症の場合は、感染疑い者が発生したら速やかに報告し、医療機関や相談センターに連絡します。また、事業所内で情報を共有し、関係者や家族にも適切に報告します。
感染疑い者への対応では、サービス提供の検討や医療機関受診を行い、検査結果により陰性なら利用継続、陽性なら入院に備えて情報提供や医療機関との連携を図る必要があります。
通常業務への復旧作業
第3段階の「復旧」では被害を受けた部分を修復し、平常時の状態へ復旧するための作業を行います。
自然災害の際は、被災状況に応じて業務の優先順位を整理し、通常通りのサービス提供が可能な状態に復旧させるための作業を実施します。
感染症の場合は、業務内容の調整や感染防止策を考慮したサービス提供、適切な情報発信が求められます。
訪問介護のBCP策定の手順
実際にBCPを策定する際には、次の手順で進めることで、効率的かつ有益な内容にできます。
- BCP策定の基本方針を設定・共有する
- 推進体制を構築する
- 重要な業務と関連するリスクを特定する
- リスクに優先順位を付ける
- 研修・訓練など、BCPの実施に関する具体的な対策を検討する
一つずつ解説します。
1. BCP策定の基本方針を設定・共有する
はじめに、訪問介護事業所でBCPを策定する際の基本方針を設定しましょう。事業所の目標や経営理念をもとに、BCPの目的や事業の優先順位などを明確にします。
災害時には全ての事業を同時に進めることが難しい場合があるため、従業員の安全やサプライチェーンの確保、利用者からの信頼の保持など、経営者が重視する価値を確認しておくことが重要です。
設定したBCP策定の目的を事業所内で共有しておくことで、災害発生時における迅速な意思決定と行動につながることが期待できます。
2. 推進体制を構築する
訪問介護のBCPを策定するためは、推進体制を整える必要があります。組織全体を横断して、BCPの策定に関わる組織を作り上げることが求められます。
関連する担当者を事前に指名し、連絡先も整理しておくと良いでしょう。
3. 重要な業務と関連するリスクを特定する
次に、災害時に事業を継続する上で重要な業務の特定を行います。具体的には、売上がもっとも多い業務、損害が大きい業務、信頼維持に重要な業務などを選別します。
これにより、限られたリソース状況で優先的に継続すべき業務を再評価することが可能です。例えば、災害時には平常時の3割のリソースしか得られないと仮定し、継続すべき業務を検討すると良いでしょう。
その上で、事業を継続するためのリスクの洗い出しを行います。想定されるリスクを明確にすることで、具体的な対策や対処法を講じやすくなります。
4. リスクに優先順位を付ける
想定されるすべてのリスクに対処することは現実的ではないため、リスクに優先順位をつけ、その中でも高い優先度を持つリスクに焦点を当て、BCPを策定していきます。
優先順位を付ける際には、リスクの発生頻度や深刻度に注目することがポイントです。評価軸と時間軸をもとに被害リスクを分析し、継続や早期復旧を優先すべき事業を選定しましょう。また、復旧に必要な時間や、復旧度合いの評価基準も定めておくと良いでしょう。
5. 研修・訓練など、BCPの実施に関する具体的な対策を検討する
これまでの内容を計画書にまとめ、災害が発生した際の事業の優先順位や回復に必要な時間の目安、各種リスクなどをもとに、実行可能な対策を詳細に検討・作成していきます。
BCPでは指揮系統や実際の行動担当者を明示し、各災害事象に対する具体的な対応内容も細かく決定しておく必要があります。
計画書作成と同時に、社内への周知や教育、BCPの定期的な見直し・更新を行う仕組みを確立することも大切です。
訪問介護のBCP策定のポイント
訪問介護のBCP策定時には、次の4つのポイントを意識して進めることで、スムーズかつ意味のあるBCP策定を実現しやすくなります。
- 優先度の高い対策から着実に準備を進める
- 他施設や地域との連携体制を築く
- 策定後も定期的・継続的に見直しを行う
- BCP策定の専門家にサポートを依頼する
優先度の高い対策から着実に準備を進める
訪問介護でBCPを策定する際のポイントの一つは、優先度の高い対策から順に準備を進めることです。
計画策定に時間をかけ過ぎて不意の災害に備えられなかった場合、本末転倒な結果につながりかねません。そのため、限られたリソースや時間を踏まえ、優先順位にそって着実に備えを行うことが重要です。
例えば、利用者の安全確保や医療的なサポートが必須であるならば、それらの業務に焦点を当て、従業員の配置や物資の備蓄などを計画的に進めるといったことです。
これにより、訪問介護サービスが遮断された場合でも、優先事項を遂行するための具体的かつ計画的なアクションが可能になります。
他施設や地域との連携体制を築く
自然災害などが発生しBCPを発動する際、訪問介護事業所単独での対応は難しい状況が考えられます。そのため、日頃から他の施設との交流を深め、緊急時に協力し合える連携体制を整備しておくことが不可欠です。
連携先の選定は、地理的な配置や提供するサービスの種類など、さまざまな要因を考慮し、実際に応援を期待できる施設との協定を締結する必要があります。
また、災害時には同業者に限らず、地域住民との協力も求められます。災害時に役立つ可能性がある地域の事業者(食料品店・工務店など)、ライフライン関連の業者(電気・水道など)、医療機関・自治組織・消防団・警察署などとのネットワークを築いておくことが重要です。
策定後も定期的・継続的に見直しを行う
訪問介護事業の性質として、地域の状況や利用者のニーズ、従業員の体制などが絶えず変化することが想定されます。BCPの有効性を保つためには、定期的・継続的な見直しと更新が必要です。
見直しを実施する際には、最新の情報をもとにリスクを再評価し、変化した状況に適応するための調整を行いましょう。
新しい災害リスクや技術の進歩などの変動に対応し、BCPを最適な状態に維持することで、変化する環境に柔軟かつ適切に対処できます。
BCP策定の専門家にサポートを依頼する
訪問介護のBCP策定では、多岐にわたる要素を考慮する必要があるため、専門知識を持つコンサルタントやアドバイザーのサポートを受けることもおすすめです。
介護・福祉事業分野に詳しい専門家であれば、業界標準や成功事例などをもとに、事業に適したBCPを提案してくれるでしょう。これにより、潜在的なリスクや対策漏れを早期に発見し、より包括的で効果的なBCPを構築することが可能です。
また、法的な規制や規格にも精通しているパートナーにBCP策定の代行を依頼することで、訪問介護事業所のBCPが適切に整備され、規制に適合しているかどうかも確認できます。
アステージ社労士・行政書士事務所では、事業の状況に応じてBCPの実質的な策定を支援し、書類作成も代行いたします。最短・最速で対応したい方や本格的なBCPを構築したい方など、お客様のニーズに柔軟に対応いたします。
>介護事業特化の専門家が BCP策定をサポート|介護事業開業サポートセンター
まとめ
訪問介護事業におけるBCP策定は、災害時の業務中断などの損害を最小限に抑え、利用者の安全確保や事業の継続・復旧を図るために欠かせない事項です。
優先度の高い対策から準備を進め、継続的な見直しを行うことで、変動する環境に柔軟に対応し、事業継続性を確保できるでしょう。
BCPは個人で作成することも可能ですが、作成には時間と手間がかかるため、2024年4月からの義務化に間に合わせるためにも、事業所の状況に応じて外部にBCPの作成を委託することも一つの方法です。
事業所内での人員が不足している場合や、小規模事業の場合、BCPの作成経験がない場合などには、代行サービスの活用も検討すると良いでしょう。
アステージ社労士・行政書士事務所の「介護事業開業サポートセンター」では、介護・障害福祉事業所向けのBCP作成を代行しています。お客様の状況や予算に合わせて、複数のプランを提供していますので、お気軽にご相談ください。
>介護事業特化の専門家が BCP策定をサポート|介護事業開業サポートセンター
執筆者情報
-
事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
「介護事業開業サポートセンター」では、これから介護・福祉事業をスタートされる方および既に開業されている方の為に必要な手続きをトータルでサポートしております。
介護・福祉事業の創業を数多くお手伝いしている実績をもとに、法人設立・指定申請などの手続き、助成金や融資、開設後の運営もご相談頂ける「身近な専門家」として、常にお客様の立場に立ったサービスを心がけ、全力でお手伝いさせて頂きます。