介護福祉事業の営業強化について ~事業開始フェーズから拡大フェーズまで~
- 2023.10.18
著:株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 代表取締役兼ISO9001審査員 西村栄一
1.介護福祉事業開始フェーズ(0→1へ)
介護福祉事業に限らず、事業を新規で始めることや、新しい取り組みへのワクワク感という「やりがい」は、まさに「0を1」にすることの感謝、感動、実感のためだといってもいいのではないでしょうか。
そして、介護福祉事業を始めるにあたって、経営者として自事業所と取引していただく「ケアマネジャー」や、サービス提供する先の「利用者」はどこまでイメージされているでしょうか。
どんな利用者がうちの事業所を利用されるのか?
利用者にはうちの何を感じて、どう満足していただけるのか?
さらには、その利用者には、数年後うちのサービスを利用されて、どうなられるのか?
経営者として、どこまで頭の中で具体的にできているでしょうか。訪問介護であれば1対1ですが、通所介護事業ですと複数の方々がどう1日をそこで過ごされるのか考えてみてください。「全く考えてもみなかった」という方はいないと思います。
そのイメージがあって、初めて0は1になるのです。逆にないと1にはいつまでもなりません。「うちはどんな方でもいい」「どんな方でもウェルカムです」なんていうのは「誰も来ない」という悲劇になると思ってください。
どんな事業所にしたいのか。イメージを言葉にする「コンセプトの確立」が最も重要な要素です。その考えるきっかけのひとつは、「自分の地域にはないオンリーワン」のサービスを考えることも一つの案です。
ただし、そのオンリーワンが、地域住民やケアマネジャー、医療関係者。ひいては、利用者のためになるのか。受け入れられるものなのか。それとも誰も気づかなかった潜在的なニーズなのか。その案は自事業所の職員にできることなのか(←これが一番大事)。
それらコンセプトの見極めは経営者としてとても重要です。
例えば、利用者のADL状態をターゲットとする。より重度な方を受け入れるのか。それとも、軽度者をはじめとした身体介護を必要としない方へのリハビリか。
生活困難の度合いをターゲットとする。高所得者か。そうでない方か。
例えば、一般的にデイサービスでの昼食は安くても300円。高いところでは700円以上というところが平均なのですが、「一律100円」というところがあります。メニューもしっかり平均かそれ以上のものを提供されているところをみると、昼食だけでは赤字ではないかと予想できます。
しかし、これこそコンセプトが明確な証拠でもあります。単価は下がりますが定員に対する稼働率は間違いなく上がります。
そうです。定員稼働率70%で黒字を目指すより、90%で黒字というリスクがあってもいいはずです。経営とはリスクは背中合わせであり、それこそ「覚悟」です。
他に、障害者と高齢者がともに過ごせる「共生型通所介護」という形も国は広げていきたいようですが、経営者や地域では進めていきたいコンセプトであっても、それを受け入れる利用者や職員の意思が合致していないケースが多いようです。
潜在的ニーズはなかなか当たることはありませんが、最初から「決めつけ」で、「ダメ」とすることは良くありません。自事業所の属する地域・利用者・タイミング等の諸条件が一致しないとうまくいかないということもあるかもしれません。
たくさん、うちの事業所のことを10人でも50人でも、少しでも多く知ってもらうことから、安定化フェーズへ、早めに、安定的に近づけたいものです。その方法としては次回のフェーズで。
2.事業拡大フェーズ(1→10)
前回は事業コンセプトの重要性を書かせていただきましたが、決まった事業コンセプトを次は試験的でも、本格的でも、「知ってもらう」活動が重要です。
「独立開業フェーズ」でもお伝えしたように、ICT、デジタルを取り扱うことは「当たり前」にしたいものです。メールの登録はもちろん、事業所のGoogleマップ登録、ブログは事業開始前からでも早すぎることはなく、インスタ等で写真をアップすることや、YouTube動画を撮って、QRコードで広げることは予算化されていた広告宣伝を大きく上回る効果を生み出します。
各種ツールを作りながら、コンセプトも変わるかもしれません。いや、変わっていくのは自然の流れです。ちゃんと地域性や利用者のニーズ、職員ができること、タイムリーに把握しているからこそできるといえます。
また、これらは、求人募集にも効果を発揮します。ハローワーク等だけしかみないという中年齢の方はあまり積極的には接することはないかもしれませんが、学校求人、大学や専門学校等のバイトアプリから接する方は集まりやすいツールである可能性には満ちています。
事業拡大フェーズとして取り組みたい項目として、「近隣」があります。これはいうまでもなく「昭和時代」でも充分にその重要性は変わらず引き継がれていることです。自治会や町内会、商店街とのつながりは、介護福祉事業でなくても、共通して言えることです。
ましてや、「人」へサービス提供する事業であれば、なおのことです。「個人情報保護」やコンプライアンスの重要性がより増してくると、事業所は、介護も、障害者も、本人も、時代を言い訳にしてますます「内側」に引きこもろうとしがちで、その実態を見せることは「悪いこと」と勘違いする傾向にあります。
もちろん、そういう時代を反映して「NG」という意見も多いかもしれません。しかし、それこそ「決めつけ」ではないかと思うのです。古き良き時代と現代の融合する接点を「事業所」「利用者」「家族」「近隣」で模索することが事業の拡大へとつながると確信しています。
事業拡大して、事業所内の利用者の稼働率も落ち着きはじめ、職員の動きもシフトに合わせて統制が効くようになってくると、そのままずっとその状態を望みたいところですが、事業経営は止まってはいけません。
前章でお伝えしたことと同じく「潜在的ニーズ」の掘り起こしは「タイミング等の諸条件の一致」が大事ということです。今ご利用いただいている利用者は「なぜうちを利用いただいているのか?」を再確認してください。
事業の拡大時には気づかなかったことが多いのですが、確認していくと、意外にも「事業所からうちが近いから」とか、「経営者の笑顔が素敵だから」「ケアマネさんが紹介してくれたから」等でコンセプトとは違うご意見も聞かれるでしょう。
しかし、不思議なことに、深掘りして理由を聞いてみると、ちゃんと事業の最初のコンセプト通りにご利用いただけていることがほとんどです。最初の経営者の「想い」がどれだけ大事かという証明でもありますし、変わりゆく時代(制度改正3年ごと)に合わせて作り変える必要も充分にあります。
また、事業の柱は「もう一つ」持つ方がいいです。事業を拡大するための鉄則です。
「うちはこれしかない」という頑固でもいいですが、柱一つを失ったり、劣化したりすると、もうひとつが支えてくれます。それは学習塾でも、飲食でも、コンサルティングでも同じくらいの売り上げ占有率を持ったものがあることはリスクヘッジのためにも大変重要といえます。これは独立開業時に想定していてもいいかもしれません。
3.おわりに
今回のコラムでは、介護福祉事業における営業強化について解説してきました。
アステージ社労士・行政書士事務所の介護事業開業サポートセンターでは、顧問社労士として事業運営のサポートを行っています。介護福祉事業の営業強化を含めた運営面でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
執筆者情報
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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
【代表メッセージ】
「介護事業開業サポートセンター」では、これから介護・福祉事業をスタートされる方および既に開業されている方の為に必要な手続きをトータルでサポートしております。
介護・福祉事業の創業を数多くお手伝いしている実績をもとに、法人設立・指定申請などの手続き、助成金や融資、開設後の運営もご相談頂ける「身近な専門家」として、常にお客様の立場に立ったサービスを心がけ、全力でお手伝いさせて頂きます。