訪問看護の設備基準とは?介護保険法・健康保険法における設備基準を解説
- 2023.11.16
訪問看護を開業・運営するためには、介護保険法に基づき、3つの指定基準を満たす必要があります。その中で、設備や備品に関する基準を定めたものが「設備基準」です。
本記事では、訪問看護の設備基準の概要と、介護保険法・健康保険法における設備基準について、訪問看護ステーションと、病院又は診療所(見なし指定)などの事業形態ごとに解説します。
訪問看護の設備基準を満たすための注意点にも触れていますので、開業を検討中の方や、運営の準備を進めている方はぜひ参考にしてください。
訪問看護の設備基準とは
訪問看護の設備基準とは、訪問看護事業者として事業指定を受けるために最低限満たさなければならない、設備や備品に関する条件です。国や指定権者(都道府県または市)によって制定されます。
介護保険法に基づく同基準は、訪問看護ステーションおよび病院又は診療所(みなし指定)に対して、それぞれ規定されています。
そもそも訪問看護は、在宅で療養生活を送る利用者を対象に、医師の指示に基づき看護師等が自宅を訪問し、健康チェックや療養上の支援などのサービスを提供する事業です。
設備基準には、それらのサービスを提供するために必要な、設備や備品に関する基準が明記されています。
3つの指定基準について
訪問看護事業を開業するには、介護保険法で定められた「人員基準・設備基準・運営基準」の3つの指定基準を満たした上で、各都道府県知事から「指定居宅サービス事業者」の指定を受ける必要があります。訪問看護の設備基準は、このうちの一つです。
指定基準は、厚生労働省の「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」にて規定されています。
指定基準や事業指定申請については、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:訪問看護ステーションの開業・立ち上げ方法をプロが解説
介護保険法における訪問看護の設備基準
設備基準については、介護保険法、健康保険法および老人保健法で定められています。
まずは、介護保険法における訪問看護の設備基準を見てみましょう。
介護保険法(平成十一年厚生省令第三十七号)の「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」の中の、第三節「設備に関する基準」に記載されている内容は次の通りです。
(設備及び備品等) 第六十二条 指定訪問看護ステーションには、事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室を設けるほか、指定訪問看護の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない。ただし、当該指定訪問看護ステーションの同一敷地内に他の事業所、施設等がある場合は、事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の区画を設けることで足りるものとする。 2 指定訪問看護を担当する医療機関は、事業の運営を行うために必要な広さを有する専ら指定訪問看護の事業の用に供する区画を確保するとともに、指定訪問看護の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない。 3 指定訪問看護事業者が指定介護予防訪問看護事業者の指定を併せて受け、かつ、指定訪問看護の事業と指定介護予防訪問看護の事業とが同一の事業所において一体的に運営されている場合については、指定介護予防サービス等基準第六十五条第一項又は第二項に規定する設備に関する基準を満たすことをもって、第一項又は前項に規定する基準を満たしているものとみなすことができる。 |
第62条の項目1と2では、指定訪問看護ステーションと指定訪問看護を担当する医療機関(みなし指定)に対し、「事業の運営に必要な広さを有する専用の事務室や区画を確保し、指定訪問看護の提供に必要な設備や備品を整えなければならない」という内容を定めています。
項目3では、訪問看護と介護予防訪問看護事業者が同じ事業所で一体的に運営されている場合は、指定介護予防サービスに関する基準を満たすことで、項目1・2を満たしているものとみなされる旨が明記されています。
健康保険法・老人保健法における訪問看護の設備基準
つづいて、健康保険法・老人保健法における訪問看護の設備基準について、次の3つの事業形態別にご紹介します。
- 訪問看護ステーション
- 病院又は診療所(見なし指定)
- 訪問看護のサテライト(出張所)
訪問看護ステーションの設備基準
訪問看護ステーションとは、利用者の主治医の所属に関係なく、訪問看護指示書の発行によってサービスを提供し、介護保険や医療保険が適用される独立した事業所を指します。
厚生労働省発行の訪問看護に関する資料によると、指定訪問看護ステーションの設備に関する基準として、下記の表記があります。
・ 事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室 引用:訪問看護 |
必須の設備として、「事業を運営できる広さの事務室を設ける必要がある」とされています。
具体的には、下記のような設備を整えることが求められます。
【事務室】
訪問看護専用の事務室が必要です。同じ敷地内に他の事業所や施設がある場合や、自宅兼事務室の場合は、他の事務所やプライベート空間と区別し、必要なスペースを確保するようにしましょう。広さに具体的な規定はないものの、最低限、机や書庫などを配置できる広さが求められます(※一部の市区町村では○㎡以上という広さ要件がある場合もあります)。
【相談室】
利用者の申し込みや相談に対応するスペースとして、相談室を確保する必要があります。相談室を設置する際には、他の利用者とのプライバシーを守るための配慮が求められるため、事務所内の一角をパーティションで仕切る形か、独立した部屋として用意しましょう。また、数人が座れるようなテーブルと椅子またはソファなどを設置すると良いでしょう。
【衛生設備・独立洗面台】
感染症予防や、看護師が訪問から戻った際の手指の洗浄・消毒を行うために、石鹸・アルコール消毒・ペーパータオルなどの衛生設備を整えましょう。洗面台を備えた衛生的な消毒スペースを確保し、手指以外のアイテム(歯ブラシ・コップなど)は設置しないよう注意が必要です。また、共有スペースや玄関にも、手指消毒用アルコールを備えることも重要です。
【鍵付きの書庫】
訪問看護では大切な個人情報を管理するため、必ず鍵のかかる書庫(ロッカー・キャビネットなど)を備えなければなりません。なお、鍵付き書庫はガラスなど中が透けて見えるものは不可とされています。また指定申請の際に、事務所内の写真が求められることもあるため、書庫を撮影する際には、鍵のかかる構造が明確にわかるように写真に収めることが求められます。
【防火対策】
安心・安全な建物として指定を受け、運営していくためにも、防火対策にも配慮しましょう。消火器やスプリンクラーの位置を確認しておくと良いでしょう。なお、事前に火災や災害時を想定した、「BCP(事業継続計画)対策」を策定しておくこともおすすめです。
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病院又は診療所(みなし指定)による訪問看護の設備基準
訪問看護の「みなし指定」とは、健康保険法において指定された保険医療機関・保険薬局が、介護保険法に基づく医療関連サービスの事業者として扱われる仕組みです。
病院又は診療所(みなし指定)の設備に関する基準として、下記の表記があります。
・ 事業の運営を行うために必要な広さを有する専ら事業の用に供する区画 引用:訪問看護 |
みなし指定での訪問看護を提供するためには、必要なスペースと設備を確保しなければなりません。ただし、みなし指定の場合は、医療機関で備え付けられている設備・備品を使用することが認められています。
訪問看護のサテライト(出張所)の設備基準
訪問看護のサテライトとは、利用者の自宅に近い場所でスタッフの待機・着替え・、道具の保管などを行い、効率的に訪問看護サービスを提供するための出張所です。
サテライト設置の要件として、厚生労働省からの通知内容に加え、各都道府県が定める項目を遵守する必要があります。
出典:介護保険最新情報 Vol.530 平成28年3月25日 厚生労働省老健局老人保健課
例えば、東京都の「訪問看護ステーションの出張所の取扱いについて」に示された設備基準には、次の内容が含まれています。
- 事務室は、事業運営に必要な広さを持ち、専有されていること
- 必要な感染症予防設備や個人情報の管理に適した鍵付き書庫などを備えること
なお、留意点として、下記の要件も明示されています。
- 管理者は出張所を定期的に訪れ、上記基準を遵守するように徹底すること
- 管理者は、出張所のスタッフと訪問看護計画について情報を共有し、必要に応じて見直しを行うこと
- 管理者は、出張所のスタッフからサービスの実施状況を報告させ、把握し、適切な指導を行うこと
訪問看護のサテライトを設置する際には、これらの基準を遵守することが求められます。
訪問看護の設備基準を満たすための注意点
訪問看護の設備基準は、開業・運営する上で必須の条件です。介護・福祉事業者として基準を満たすためにも、次の3つのポイントを意識して取り組みましょう。
個人情報の取扱方法やセキュリティを考慮する
訪問看護では利用者の個人情報を取り扱うため、情報の保管・運用には細心の注意が必要です。個人情報の取扱方法について適切な運用ルールを定め、安全な設備・備品を整えるよう努めましょう。
具体的には、鍵のかかる書庫や、セキュリティ機能を備えたパソコン・サーバーの導入などがあげられます。
また、個人情報漏洩の防止策として、スタッフには情報管理に対するトレーニングなどを実施し、セキュリティ意識を高め、周知徹底することが重要です。
人員増員の可能性も視野に入れる
実際に訪問看護事業の運営が開始し、依頼が増加してくると、事業規模の拡大に伴う人員増員が想定されます。
その際に、事務室のスペースが不足することのないよう、将来的なスタッフ数や業務量を考慮し、適切な物件の選定や設備整備を行っておく必要があります。
実地指導(運営指導)・監査に備える
法令により、行政は訪問看護などの介護保険施設に対し、運営の適正化を促進する目的で定期的な「実地指導(運営指導)」を行うことになっています。
これは介護サービスの品質や運営の仕組み、介護報酬の請求状況などを確認するもので、通常は指定の有効期間である6年間の中で1回以上実施されます。
実地指導で違反が見つかると、報酬の返還や指定解除などの措置につながる恐れもあるため、日頃から運営指導マニュアルや自己点検シートなどを活用し、備える必要があります。
実地指導・監査については、こちらで詳しく解説しています。
関連記事:訪問看護/介護・福祉事業における運営指導(実地指導)対策について
まとめ
訪問看護の設備基準とは、国や指定権者によって制定され、訪問看護事業者として指定を受けるために、最低限満たさなければならない条件です。
基本的には、下記の要件を満たす必要があります。
- 事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の事務室
- 指定訪問看護の提供に必要な設備及び備品等
本記事でご紹介した内容を、訪問看護事業の開業・運営にお役立ていただけると幸いです。
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執筆者情報
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事務所名:アステージ社労士・行政書士事務所
所属等:日本行政書士会連合会/全国社会保険労務士会連合会/大阪府行政書士会/大阪府社会保険労務士会/大阪商工会議所会員
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